本日は東京湾を出て遠洋航海初日であるが、荒天のため、甲板での課業(訓練)ができない。
そのため、船内において、航海計画の説明と帆船に必要なロープの取り扱いを御教授頂いた。
天気は、午前が荒天、のち曇り
船が東に進むのに伴ない船内時計を進める。本日正午に時計を9分進めた。
昨日と合計では24分進めたことになる。
取りあえず、時間経過で一日の動きを追ってみよう。
0300 午前3時に、
departure point 北緯36度00分、東経141度00分を越えた。
この地点までのエンジンでの機走は、予定速度は11ノットであったが、荒天のため平均4.5ノットしか出ていない。
次の画面は、船の位置、船の針路、風向、風力、波の高さ、気圧、温度、実際の速度などを表示するモニターで、船内時間午前8時21分(モニター時刻はグリニッジ時間)の内容であるが、この時の速度は9ノット出ていた。
画面左半分に東京からの航路が表示されており、海王丸の現在位置は、34-58.64N (北緯34度58.64分)、141-37.18E (東経141度37.18分)
0400 当直交代
大航海時代から咸臨丸の時代、そして現代でも、1日24時間を6つに区分(午前0-4、4-8、8-12、午後0-4、4-8、8-12)し、4時間交代の当直で船を動かしている。
当直の呼び方は簡単に、0-4(ゼロヨン)、4-8(ヨンパー)、8-0(パーゼロ)で、午前午後とも同じ。
午前4時は、0-4(ゼロヨン)当直と、4-8(ヨンパー)当直が交代する。
日出
日出の刻(本日は午前5時過ぎ)には、航海灯を消灯し、旗章を掲揚する。
0610 朝別科員起こし
睡眠の必要な午後8-12(パーゼロ)当直と、午前0-4(ゼロヨン)当直以外は全員を起こす。
研修生は指導員が起こし、実習生・乗組員は0620に現当直の4-8(ヨンパー)当直が起こす。
集合時間は0630だが、研修生は10分前集合なので時間がなく、起きてからは極めて忙しい。
この日は起こされる前にしっかり目が覚めていた。
かって経験したことがない激しい船体動揺のためか、吐き気を伴う船酔いではないが、頭がやや重く感じる。但し、活動には全く支障はない。どうやら船酔いしない体質らしい。
二段ベットの上段が小生の寝床だが、寝ている間によく下に落ちなかったものと感心する。
朝別科では、居室掃除の当番以外は甲板磨きを行う。
また航海上必要であれば帆桁まわし、展帆、畳帆などの作業がある。
朝別科開始時にはまず航海訓練所特有?の準備体操を5分ほど行い、狭いベッドで固くなった身体をほぐす。
但し本日は、荒天(波高3.5m、風速40m)のため暴露甲板立入禁止であり、朝別科はなかった。
0715 8-0当直員起こし (4-8当直が行う)
0720 朝食
0800迄に食べ終える事が要求される。(0800以降は4-8当直が当直を終え朝食を摂るため)
海王丸の朝食は小生には多すぎて全部食べきれない。
食事の量は肉体労働と育ち盛りの実習生に合わせてあるためか非常に多い。
質についても、種類も多く、高級レストランとまでは行かないが研修生の評価は良い。
小生は歳と共に食が細くなっているので、とても多く感じる。
若い実習生は殆ど残すことなくご飯はおかわりまでするが、この日は昨夜来の荒天時化による船酔いのためか、青い顔をして食べない人も多く見かけた。後で知ったことだが、乗組員の8割は船酔いしていたらしい。
0830 課業始め
0815に「課業始め15分前」、0825に「課業始め5分前」のマイクがある。
荒天のため、船内で一番広い食堂を兼ねた第一教室に集合し、点呼・報告をする。
点呼の後、各教官から今日の予定と注意事項の伝達があった。
点呼は、集合の都度、行う。船では極めて重要な確認作業で、海に落ちた者がいないかの確認でもある。その時はすでにもう遅すぎるのだが・・・・
点呼は多い時では1日6回の日もあった。
点呼結果の報告は、全員いる場合「研修生12名よろし!」
怪我などで1名欠けている場合「研修生総員12名、休業1名、現員11名よろし!」
点呼報告を受ける教官は、受けて確認したことを報告者に分からせるため、報告の都度、「研修生12名!」、「研修生11名!」とオウム返しに報告者に復唱する。
航海科と機関科との両方で同時に、順次大声で遠くから報告するため、声が混じり聞きづらいが報告内容は簡潔で時間は極めて短い。研修生は航海科の教官に対し報告する。
報告と、報告を受けたことの復唱は、相互のコミュニケーションが確立していることをお互いが確認する作業であり、海王丸では様々のシチュエーションで行われる。
0900 今回の航海計画について、専任教官より士官サロンにて説明を受ける。 一番後ろで一人受講しているのが小生
研修生12名全員と実習生の一部が受講生で、内容は以下の通り。
①航海予定の概要
以下のポイント区間毎に概略的な説明があった。
出発地点(北緯35度、東経141度)
子午線通過(北緯40度、東経180度)
最北上地点(北緯45度、西経150度)
到着地点桑港(北緯37度35分、西経123度)
②4月の太平洋の海面・気圧
直近の天気図の高気圧、低気圧の動きの分析と、今後の予想
③海流の動き
北太平洋と南太平洋の季節ごとの動き
④咸臨丸の航海
150年前の咸臨丸の航跡について
⑤北半球における低気圧と風向き
⑥風力ごとの減帆の目安
などなど、パワーポイントを使い説明は分かり易い。
海王丸では、実技以外の授業は基本的にすべてパワーポイントで全員に分かり易く伝えることを、教育方法として採用している。
ただ今回の講義は、昨夜よりの荒天のため前の写真の通り疲れて寝るか、船酔いで目の死んでいる受講生が多かった。
昼前頃より、船体動揺のうち縦ゆれはかなり治まってきた。
1120 昼食 (1200迄に食べ終えること、8-0当直が1200より昼食を摂るため)
1300 操練(総員退船避難訓練)
甲板にて行う予定であったが、強風に伴い波浪・うねりがあるため、退船部署の配置確認のみに変更し、実施訓練は本日は行わなかった。
第1回目の海洋講座として、
帆船で重要なロープの扱い方(結索)を第一教室にて習う。
研修生12名のうち、海王丸で初めて航海するのは小生含めて2名だが、もう一人の研修生は海上保安庁に勤務したこともありロープの取り扱いはベテラン。
ロープは、使用部位により実に様々な結び方がある。一度ではなかなか全部は覚えられない。
ロープ結びには苦労しそうである。
1620 夕食 (1700迄に食べ終えること)
日没 「日没5分前夜航海に備え」のマイクがある。
海王丸は、旗章を降下し、航海灯を点灯する。
居室では船窓を金属の蓋でロックし、カーテンで覆って、明りが船外に洩れないようにする。
夜は国際条約で決められている航海灯だけを点け他船からの目印にするため、それ以外の灯は混乱の元であり、漏灯がないようにする。
1945 本日は夜別科がなかった。
風呂にも入らず、珍しく飲まず、おとなしく咸臨丸関係の読書をした。
2230 就眠
今日は丸一日、機走であり、船内で過ごす。
別世界での生活の第一日目が終わる。
細かい時間割に則った極めて規則正しい生活の始まり。
本日と明日の気象概要と船務について、船長より以下のメッセージがあった。
①大陸からの移動性高気圧と、三陸沖で発達する低気圧との等圧線が混み、昨晩から北東風が強く吹いた。
また強風に伴い波浪・うねりも発達し、本日午後に計画していた総員退船部署も配置確認のみに変更となった。
②明日は移動性高気圧の勢力下に入るため、風は弱まるとともに風向は順転(時計回り)する。
高気圧の後面に位置すると、風は弱いながらも南系から吹き始め、次の低気圧に押されて等圧線は混み始めることが予想されるため、風は時間とともに徐々に勢いを増していくものと期待する。
船務関係
①船体が動揺すれば、どのような老練な船乗りでさえも多少のダメージは受けるもの。船酔いで命を落とすことはないが、集中力を失い怪我で致命的事故につながるケースもある。
また、移動物の固縛や開口部の閉鎖を怠り、大きな海難事故に遭遇したケースも多々みられる。
その意味で、遠洋航海初日に(この程度の)時化を経験でき、無事にクリアできたことをプラスに捉え、次の帆走航海に向けた準備を始めていくことになる。
②明日はいきなり強風下での展帆作業とはならないと期待する。
しかしながら、ヤードを一杯開きで帆走する場面となるため、海王丸は傾斜する。
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