海王丸航海3日目 2010/04/09(金) 帆走開始 マスト登り

本日は午後から、いよいよ待ちに待った帆走が始まる。 帆走は、結果的には、4月30日まで連続22日間続く。 天気 曇り後晴れ 正午時点で、 前日正午からの(直航進路093、距離251マイル、東京からの距離443、残航4300、平均9.49ノット)、 風向ENE、風力5、ヤード(帆桁)左舷開き、 天候晴れ、気温12.6、海水温度16.5、気圧1030.5、海面状態穏やか 船の位置 北緯34度47分、東経147度20分 時刻改正18分(累計42分時計を進めた) 0555 起床 勝手に目が覚める。起きてすぐ甲板に上がり、空と風と海の状態を確認した。 曇りだが風もあり海は昨日よりはかなり穏やか。
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船内時間6時6分のモニターを確認する。 機走のため思い通りにほぼ真東に進んでいる。今は予定通り11ノットのスピードが出ている。 帆走の場合は風を求めて進むため機走のような直線が続くことはない。
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0610 朝別科員起こし 0630 後部甲板フード前に集合し、整列点呼する。 研修生は、フード(風と波から舵取り当直作業者を守るための頑丈な覆い)前の風下側に集合整列することに決められている。 風上(ふうじょう)側はウェザー、風下(ふうげ)側はリーと呼ぶ。 帆桁がどちらの舷側に開くかにより(つまりは風の方向により)、ウェザーとリーは都度変わる。 風が右舷側から吹けば右舷が風上で、風を捕まえるため帆桁は右舷側に開く。 この時船体は、右舷が高く左舷が低く傾斜する。従って風下のリーは左舷側になる。      風上と風下の認識は重要で、甲板を歩くときは安全のため常に風下側を歩くことが求められている。 0640 朝別科開始 朝の体操をした後、居室清掃当番以外は、全員で甲板掃除をする。   ①甲板掃除は、まずホースを使って甲板に海水を流し、椰子の実で擦り、最後に水分を拭い去る。
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②椰子の実擦りは、別名タンツー(turn to the work、仕事にかかれ)と呼ばれ、半分に切った椰子の実を用いて 船首から始めて船尾まで100mの甲板を腰を落として磨いていく。
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腰を落として100mの作業は結構きついが、何回かやると慣れ、体力もつく。 また、わっしょい、わっしょいの掛け声で皆で一斉に行うので一体感が生まれる効果もある。         海王丸でのこの掛け声も独特で、 椰子の実擦りは、(リーダ発声)ワッショイ、(発声を受けて全員で)わっしょいの掛け声一回で、一歩進む。 一方、帆桁を揚げたり回すために皆で力を合わせてロープを引く時は、(発声)セーノ、(受け)わっしょい。こちらは掛け声一回でロープを思いっきり引く。 ③最後に水分を拭い取る
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       0715 朝別科止め、(当直員起こし) この時間で朝別科の作業は止める。 0720 朝食 (0800までの間に食べ終えること) 0800 (当直交代、4-8当直は朝食) 0830 課業始め 甲板に集合、整列点呼 本日は、①ロープの縛り方、解き方の実習と、②登艢訓練を行った。   まず、甲板で教官からロープを杭に縛り、解く方法を習う。
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次に、帆桁を揚げたり回したりするときのロープの使い方と、号令について学ぶ。 ロープを引くのは綱引きと似ている。 号令は、「スタンバイ(stand by)、用意」、「ホールタイ(haul tight)、引け」、「イーズアウェイ(ease away)、のばせ」、「レッゴー(let go)、放せ」、「ビレイ(belay)、止めろ」などで初めて聞くと何をやってよいかわからないが、徐々に慣れてくる。
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   登艢訓練は、今回はロワートップボード(マストの途中にある最初の踊り場)まで1回だけ登る。 次は翌日の帆走航海での写真だが、右上にみえる踊り場が高さ20mのロワートップボード。
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小生の場合、マスト登りは初めてで最初は緊張したが、 素手素足で登り始めるとシュラウド(縄梯子)の角度は意外と緩やかで、船体が傾いている風上側で背に風を受けるため、登るのは思ったよりも楽であった。 シュラウドは縦方向のリギン(ワイヤ)にラットラインと呼ばれる細いロープが渡してある。 教官から、右腕で2段上のリギンを掴み、左足を同じだけあげラットラインに降ろす、次は左腕を2段と右足、手の位置、足の位置などをアドバイスを受けながら、これを交互に繰り返し登る。 安全ベルトは装着しているもののマストを登っているときは使わず、踊り場に着いてからそこで立って休んでいるときに使用した。
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    1120 昼食 1300 課業始め 船長より、第一教室にて実習生・研修生を対象に「航海計画」のブリーフィングが行われた。
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      内容は、 ①帆走航海の概要(航海予定の4週間を週毎に4つのステージに区切りその各々の航海の特徴と取り組むべき目標の設定)、 ②帆走航海のポイント、 ③第1ステージ(第1週目)の概要、 ④荒天航海の基準、 ⑤本日の展帆基準について
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  帆走航海の概要
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  帆走航海のポイント
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  行程を4つに区切る
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  帆走航海につきものの荒天対策
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  本日の展帆について
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ブリーフィングのうち、帆走航海については、あらまし船長の口調を借りると以下の通り。 与えられた期間は4週間。単純に1週間ずつに区分けして物事を考える。 総行程は約5,000マイル。28日で割ると、帆走航海速力は7ノット必要。 昨日4/8の機走により少し貯金ができた状態で帆走をスタートさせる。 4分割に分類したので、PDCAサイクルで一足一足つないで、一週間になり最後四週間になる、という感じでいく。 ポイントは3つ ①日本近海から180度子午線を如何に越えるか 北太平洋は低気圧と高気圧の通路になっている。高気圧が行けば裏側に低気圧、また次に高気圧が行く。高低高のすさまじいスピードで天候が変わり易い。このタイミングの見極めが大事。 そして北緯40度ラインをどこで切るか。一番大事なのはこの船を危険な所におかないこと。 よって、急速に発達する低気圧を気を付けていきたい。 ②西経入りしたならば北太平洋高気圧を如何に越えていくか 高気圧の真ん中に入ると風はない。南に位置すると逆風。よって北に位置しないといけない。 ③北米西岸に近づくと日本と同じ状況になる 低気圧が流れて、また高気圧、低気圧、高気圧と順々に流れていくので、この見極めを気を付けていかねばならない。       帆走航海について、大きく4つに分割し、PDCAを回して次の計画を修正していくとの方針は、会社生活を送った者にも実務的でなじみやすい説明だった。 ブリーフィングが終わると、直ちに全員で力を合わせ帆桁を右舷一杯開き(3.5ポイント)とし、実習生がブリーフィングの指示に基づいて展帆した。
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1348 帆走開始 機走は前後左右に揺れる。 帆走は前後に揺れ左右の揺れは軽減するが、傾斜して走る。 風が強くなれば船体は敏感に傾斜を大きくする。 船体動揺は軽減される代わり、船体傾斜のため移動・生活は不便になる。 帆船は、飛行機の揚力と同じ原理の同じベルヌーイの定理で、前に動く。  針路方向をみる
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 船首から右舷船尾方向をみる
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 船首から左舷船尾方向をみる
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    帆走始めて3時間弱経過した16時32分のモニター 帆走に移ってから船の針路は東から、急に北北東を指し、帆走当初6.5ノットあった速度は現時点では遅くなっている。計画は平均7ノット。
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                     1620 夕食  1945 夜別科 各自、受け持ち部署の掃除をする 2000 巡検 巡検終了後、乗船して初めて温水の海水風呂に入る。それまでは二日間、黒潮温泉には船体動揺で危険と思い入らなかった。 風呂から上がった後は、居室で皆で消灯まで痛飲する。 2230 居室内消灯         本日の航海概要と気象概況について、船長からのメッセージは以下の通り ①出航後に本船に影響(時化をもたらした)を与えた高気圧は東に遠ざかり、 現時点では風はESEまで順転してきた。しかし等圧線の間隔は緩んでいるため、強風とはならずせいぜい風力階級5~6。 ②明日は等圧線の間隔が混むとともに等圧線が横に並ぶので、風は力強さを増し、さらに南に回ってくれるものと期待できる。 ③一方、行きたい針路は東であるため、ヤードを一杯開きで帆走している。従って、 風が強くなれば船体は敏感に傾斜を大きくする。 以上のことから、今晩から明日にかけて強風・荒天は予測しがたいものの、船体傾斜に対する備えが必要。 「 人気blogランキング 」  に参加しました。よろしければ押してくださいませ。
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