船は、当直を交代しながら24時間動かす。
本日から研修生も当直体制に組み込まれ実習生に混じって当直を開始した。
150年前の咸臨丸の航海日誌には4時間ごとに当直を担当した人名の記述はあるが、どのような作業をしていたのか、具体的には書いていない。
帆船航海での当直の内容を確かめることが小生の乗船目的の一つでもあり、楽しみにしていた。
写真は記念すべき小生の最初の当直で、舵輪の右側(風上側)を担当している
天気 曇り後1500に晴れ
正午時点では、
前日正午からの(直航進路065、距離245マイル、東京からの距離883、残航3859、平均10.99ノット)、
風向S、風力6、ヤード(帆桁)右舷開き、
天候晴れ、気温16.2、海水温度14.5、気圧1022.7、海面状態荒い
船の位置 北緯38度11分、東経155度02分
時刻改正21分(累計1時間18分)
0545 起床
本日はかなり船体傾斜がきつい。
船内時間5時49分のモニターで確認すると強い横風を受けている。
船足12ノット
甲板に出て、様子を見る。甲板が波に洗われ、荒天対策のロープが張られている。
左舷側から船首方向を見る
左舷から船尾方向を見る。
船尾の左舷からの船首方向
航跡が良く残っている、船足が速いのが分かる
0640 朝別科
船体傾斜がきついため当直以外は甲板立入禁止、朝別科はなし
風力6を超えているので現在は帆4枚で航海している。
風力が減ずれば増帆が予定されている。
清水管理グラフが出航後初めて張り出された。
清水は「せいすい」と読む。
4/8、4/9、4/10の使用量が予定の20t/日を切っている。
素晴らしい。非常に少ない。
但し、使用量が少なすぎるのも問題。船酔いのために活動が抑えられたか、あるいは船体動揺により風呂に入れず洗濯もしなかったために使用量が少ないと思われる。
清水管理は船では非常に大事なことで、飲料水がなくなると生命に関わる。
咸臨丸でも少ない飲料水を米兵が下着の洗濯に使い、あわや生命のやり取りに発展しかねない事件もあった。
0830 課業開始
当直(watch、ワッチ)の説明を次席一等航海士より受ける
当直の仕事は実際には、航海科と機関科で大きく内容が異なり、研修生が入る航海科は、また大きく航海当直と停泊当直で仕事は全く異なる。今回、研修生は航海当直のみを担当し、その中で実習生にはある副直はしない。
研修生の当直当番は、以下の5つの担当部署と、待機がある。
①ウェザーホイル 操舵当番。船尾にある舵輪の風上側を担当する。
コンパスと帆を見ながら操縦するため船の一番後ろに舵輪がある。
船長の要求針路を維持するために、当て舵を参考にし、吹き流しや帆に当たる今現在の風向風力を読み、コンパス上に示される変化しつつある進路を直すため、舵を切る。
舵を切るために舵輪をどちらに側に何回回すかの、指示を出す。
一回転で一度舵が動く
②リーホイル 操舵当番。船尾にある舵輪の風下側を担当する。
ウェザーホイル当番の指示に従って、同時に一緒に舵輪を回す。
③ルックアウト 見張り。
船首において、他の船舶・流木などの漂流物・鯨などを見張る。
船舶などを認めた時は船尾の当直航海士に大声で知らせる。
船首にいて波などをかぶるほど危ない時は艦橋での作業に替える。
④計器当番 艦橋にある計器類の当番。
主にレーダにより航行する他の船舶、陸地、嵐を呼ぶ雨雲などを監視する。
また、正午からの累積航行距離を読み(ログリーディング)を30分毎にリーサイドに報告する
⑤リーサイド 風下当番。
気象観測や情報連絡を担当する。一番忙しい当番かもしれない。
無線室の隣りの小部屋で様々な作業をする。
風向風力を15分毎に算出し、都度、後部甲板の当直航海士に報告する。
また、30分毎の気圧、1時間毎の天候、海水温度・乾湿球温度を観測する。
計器当番から連絡のある30分毎のログリーディングを記録する。
正時、30分毎および当直交代15分前に時報を点打する
課業開始終了および当直交代(30分、15分、5分、1分前)を船内にマイク報知
⑥リーサイド待機
風下側の甲板に整列して、帆走中はいつでも帆が調整できるよう待機している。
研修生12名は全員が同じ当直グループを構成する。
本日の担当は0-4当直。12時から当直のため早めの昼食を摂る。
1115 昼食
30分後には用意をして甲板に集合するため、食べるのも忙しい。
1145 集合 後部甲板フード前
整列 現在の当直は風上ウェザー側、次の当直は風下リー側に整列する。
点呼 点呼報告
当直交代 引継を行う
当直交代時には引継ぎを行う。
引継ぎの方法は極めて独特で、今回の場合は、
①8-0当直の実習生が0-4当直の実習生に引き継ぐ
②終わると別に、8-0当直の(三等)航海士が0-4当直の(三等)航海士に引継ぐ
引き継ぐ内容は、風向、風力、乾湿球温度、海水温度、天候、気圧、ログリーディング、各コンパスの値、デザイアコース(船長の要求する針路)、当て舵、海域の状況など、および上記各項目について本8-0当直と前4-8当直との数字の差異を、すべて暗記して口頭で整列している皆に大声で報告する。
時間は実習生だけで2~3分はかかっている。
夜間の場合は暗闇の中での引継ぎであり、メモを見ることは全く出来ない。そのため、日中でも常に暗記して行う。短時間での大量項目の細かい数字の暗記は結構大変。
報告が終わると、「何か質問はありませんか?」と交代相手にたずねる。交代する側は、何もなければ「ありません」と答えて引継が終了する。
航海士の引継ぎは実習生に手本を示すことも兼ねている。
1200 当直開始
当直時間は、1600までの4時間だが、1時間ずつに区切り、各々別の当番を交代で行う。
小生の場合は、今回は以下の通り。
1200-1300 ウェザーホイル 舵輪の風上側の担当。
1300-1400 リーサイド待機 風下で待機する
1400-1500 ルックアウト 船首で船・流木・鯨などを見張る。
1500-1600 リーサイド待機 風下で待機
ウェザーホイル、記事初めの写真を再掲する。
今回の風上は右舷側、従って船首に向かって舵輪の右側を担当する。
ルックアウト
本日は風が強く波をかぶる恐れもあるので、船首ではなく艦橋で当番
風が強いため、帆は上の横は2枚を減帆している
艦橋からの写真3枚
夕刻、船尾にアホウ鳥をみた。
小生は学友会サークルでは漁労班に入っている。
船尾では糸を垂れトローリングをしているのだが、船足が7ノット以下でないと釣れない。今日も10ノットが出ている。
本船の後でアホウ鳥が舞っている。疑似餌や船から捨てる残飯を目当てについてくる。アホウ鳥は潜れないので、通常は海面すれすれに飛び死んだ魚を探している。
2000 巡検後、映画鑑賞
実習生は船員教育の勉強ばかりしているわけではなく、学友会として趣味の集まりの会を幾つか持っている。映画班はその一つで、時々、映画を上映してくれる。
本日は、「MASTER and COMMANDER」を観た。
帆船に勤務する少年士官の成長と、鯨油をめぐる英仏の争いを描いているが、今現実に帆船に乗っているのでとても内容が分かりやすい。
帆船とその操船のための作業についてよく描かれていた。
本日の航海概要と気象概況について、船長より以下のメッセージがあった。
①昨日から今日にかけて随分距離を稼ぐことができた。高気圧からの安定した風を受けたため。
②今晩からは春特有の、高→低→高→低の目まぐるしく変わる天候となりそう。
気象概況
①本日まだ東に位置する高気圧の影響(吹き出しによる南風)を受けてきたが、徐々に低気圧への影響下に入りそう。
②アリューシャンに位置する低気圧下に入れば、前線が通過し、西風~北西へと順転する。前に位置する低気圧下になればそこへ吹込む北東へと逆転する。距離的なことから恐らく後者、風は逆転し北東へ転じる事と思うが、確信はない。
③従って、帆走状態はいずれに転んでも大丈夫なように、日没前に予めヤードを引き込み、ステースルを畳帆して備えることにする。
いずれにせよ、明日昼には北海道から東進する高気圧と本船前に位置する低気圧との関係からしっかりとした北東風が吹くことは間違えなさそう。風が北に転じた後は、ぐんと気温が下がる。
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