本日高気圧から低気圧の影響下に入った。明日には再び高気圧勢力下に入る様相を呈している。
目まぐるしく変化する天候は風向にも如実に表れ、昼までは南風→その後北風→明日には南風・・・と風向も大きく変化する。
風向きが変わるため、風を受ける舷を変えるために午後はウェアリングを行った。
風を受ける舷が変わると船体傾斜の方向も変わる。寝る時は朝とは頭の位置を変えねばならない。
天気 曇り、小雨
正午時点では、
前日正午からの(直航進路077、距離214マイル、東京からの距離1097、残航3643、平均9.18ノット)、
風向SE/E、風力5、ヤード(帆桁)右舷開き、
天候雨、気温12.9、海水温度11.0、気圧1021.5、海面状態穏やか
船の位置 北緯38度58分、東経159度29分
時刻改正15分(累計1時間33分)
0830 課業開始
0900 海洋講座
本日は室内でロープの扱い方を研修した。
小生はなかなかうまくロープが扱えない。何度やっても覚えられないが年のせいだろうか?
ベテラン教授のロープ捌きは見事というほかない
ところで、 船の中では船長の判断は極めて重要である。
実習生・研修生・乗組員170名の生命を預かっている。
従って、船の位置については常に安全サイドで物事を考えようとする。
その場合に重要なのが、船をその場所に持っていくために、今日明日だけでなく1週間先以上の気象予想から、高気圧と低気圧の動きを予測する能力である。
高気圧と低気圧の流れがどのように変わるか、風の吹く道と何日か先の船のあるべき位置を予定し、安全サイドに最重点をおきつつ、その場所に船を誘導していく必要がある。
その点、海王丸の船長は十分信頼するに足る人物であることが、今航海で何度も確認できた。
気象予想は無線室で受電するが、本日から明日の気象予想は以下のとおり。
目まぐるしく天候が変化する予想であるが、風向きの変わる午後にウェアリングを行うとの報知があった。
1300 航海実習生・研修生全員でウェアリングを行い始めた。
風向きが南から北に変わったのでヤード(帆桁)の開きを右舷開きから左舷開きに逆方向に変える。
手順は以下の写真の通り
風向きが変わった時に風を受ける舷を反対側にする方法は、ウェアリングとタッキングがある。
ウェアリングは、船首を風下にまわし風を受ける舷を変える。
タッキングは、船首を風上に回し風を受ける舷を変える。
ウェアリングの利点は、
①失敗がない、②少ない人数で出来る、
欠点は、広い場所が必要で時間もかかる、ことだが、太平洋であり訓練でもあるので、むしろメリットだらけと考えた方が良い。
タッキングは、下手をすると失敗することがある。
従って、今航海では一度も採用されない方法であった。
風向きと舷、船の進路を、各時のモニターで確認してみる。
①船内時間5時58分、南風(218度、13.8ノット)、右舷(風向93度)、進路東、9.9ノット
②船内時間12時55分、北風(5度、16.3ノット)、右舷(風向157度)、進路南南西、2.7ノット
③船内時間13時28分、北風(24度、21.0ノット)、左舷(風向123度)、進路南南東、6.6ノット
④船内時間13時50分、北風(360度、13.2ノット)、左舷(風向90度)、進路東南、9.5ノット
⑤船内時間21時39分、北風(21度、22.2ノット)、左舷(風向85度)、針路東南、9.5ノット
朝の南風が午後に北風に代り、ウェアリングを行って、右舷から左舷に風を受ける舷を変え、進路は東から、東南に変針したのが分かる。
夕刻より風力も増し、本日から明日にかけ海王丸の向かう方向が大きく変わった。
午後は、3マイルから先が見えない、時化の状態でもあった。
咸臨丸に乗船した公用方の吉岡勇平は、亜行日記に
「濃霧降りて咫尺を弁せず」
「湿気雨衣を透し加うるに船動揺して正しく歩行することを得ず」
と書いたが、それに近い状態であった。
(公用方吉岡勇平は 木村摂津守の秘書を務めていた。木村の「奉使米利堅紀行」も同一表現)
1600 当直 1600-1945
1600-1700 リーサイド待機
1700-1800 計器
1800-1900 リーサイド待機
1900-1945 リーサイド
第二回目の当直は、防寒服、雨合羽、長靴の完全防備で臨んだ。
当直最後のリーサイドは、夜でもありまた風雨の中で、艦橋の屋上にある装置を懐中電灯で照らし乾球(9.6)、湿球(9.4)と読みとる作業は、不慣れな中での作業となった。
(乾球、湿球の値が近いと雨となるのが分かる)
昨日も書いたが、リーサイドの仕事は多い。
①マイク
課業開始何分前のマイクを掛けるその前後で、後部甲板に行き当直航海士に報告する。
小生「課業開始5分前のマイク、かけます」、 当直航海士「よし」
小生「課業開始5分前」を2回マイクで繰り返し放送する
小生「課業開始5分前のマイク、掛けました」、当直航海士「よし」
②タイムベル
時刻により鳴らす回数が異なる。鳴らす前後で後部甲板に行き当直航海士に報告する。
小生「1分(ヒトフン)前、タイムベル行ってきます」、当直航海士「よし」
小生、タイムベルを回数分鳴らす。引っ張るひもは押すのではなく手前に引く方が良い。
小生「タイムベル、行ってきました」 鳴ったのは聞こえているが必ず報告する。
③観測 乾球、湿球、海水温度の測定と報告、1回/1時間
④風向と風力 15分毎に算出して報告
⑤ログリーディング 艦橋からの30分、00分の累積ログ(航行距離)の報告を受け、都度報告
累積ログは艦橋にて正午にゼロクリヤする。従って累積ログ値は、正午から翌日正午まで累積され、一日の航行距離とされる。
船での数字の呼び方は、昔からの呼び方ではあるが、日常生活から見ると独特である。
1(ひと)、2(ふた)
11(じゅうひと)、12(じゅうふた)、10(じゅう)、20(ふたじゅう)
1020(せんふたじゅう)、1012(せんじゅうふた)
本日の航海概要と気象概況について、船長から以下のメッセージがあった、
気象概況
①本日は南西に位置する低気圧へ吹込む北東風となっている。その後風向きは北東→東→南東へと変化する模様。
②風向きに伴い、明朝まではport tack(左舷から風を受けるので、右舷傾斜となる)、その後風向きがeastよりも順展したならば再びstarboard tack(右舷から風を受けるので左舷傾斜となる)とする予定。
③風力は今晩も明朝も、等圧線の間隔が大きな変化はないので、風力6~7の強風が期待(帆走の視点では心強い風)できる。
④その後、日本列島を発達しながら北東進する低気圧の針路を見極めることができたならば、本船も針路を北東に定める。そうなれば、風を右後方から受けることとなり、幾分船体傾斜は和らぐことが期待できる。
船務(安全)関係
①本日16時ごろ、東経160度線を通過した。航海計画よりも1日早い通過。これは機走を一日延長したこと、その後順調に風を掴んでいることによるが、長い航海まだまだ楽観はできない。
②出航後間もなく一週間を迎える。ここまで170名全員が事故なく無事に航海できた。やや疲れも出始めている頃。明日は運動日課で少しリフレッシュを図り、鋭気を養う。
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