薩長盟約と香蘭女学校

香蘭女学校は名前の通り女子校で、今日では珍しい「女学校」を名乗っている。 明治21年(1888)の創立なので、今年で開校124年になる伝統校だ。 薩長盟約とは一見何のリンクもなく、並べて題しても何のことかわからないが、小生には意味のある学校。 慶応2年正月、龍馬が長府から京へ登る時、一人の長府藩士・三吉慎蔵が同行した。薩長盟約に大きくかかわってきた長府藩としてその成立を見届けることと、薩摩藩の内情偵察・京師の時勢探索を目的としている。 薩長盟約成立後、1月23日の夜に寺田屋事件が勃発し、傷つき動けない龍馬を救うため慎蔵は伏見薩摩藩邸に助けを求める。お龍からの急を聞いて待っていた大山彦八は、自ら小舟を出し龍馬を連れて帰ってくる。 三吉慎蔵は、この事件を切っ掛けに、伏見藩邸・京都藩邸で一ヶ月余りを龍馬お龍と共に過ごす中で、入れ替わり立ち替わり慰問に訪れる多くの薩摩藩士の知己を得た。 小松帯刀、島津伊勢、桂右衛門、西郷吉之助、大久保市蔵、岩下左次右衛門、伊地知正治村田新八中村半次郎、西郷新吾、大山弥助、内田忠之助、伊集院金次郎、中路権右衛門、野津七左衛門、児玉四郎吉、医師木原泰雲など。 以上は「三吉慎蔵日記」によるが「三吉慎蔵日記抄録」では鈴木武弥も追記されている。両日記には記述がないが、当然、大山彦八、吉井幸輔とも知己となった。 中村半次郎の親友の伊集院金次郎のように、鳥羽伏見の戦いで戦死した者もいるが、多くは明治期にまで生き残り、明治新政府に任官し顕官となっていく。 一方、三吉慎蔵は世子傳役専任として明治を迎え、明治4年以後は、家督を継いでいる毛利元敏に随従し長府毛利家家扶(江戸時代の家老、用人)として東京で仕える。 ところが明治10年(1877)9月に突然何の前触れもなく宮内省から呼び出され、否応なく宮内省御用掛・北白川宮能久親王御付を仰せつけられる。任命された経緯はよくわからないので現在調査中だが、慎蔵の性格からすると、ある面、迷惑だったに違いない。宮内省側も慎蔵が毛利家家扶であることを知らずに任命したようで、調整の結果、その後ある時期から、明治23年(1890)3月の依願退官まで、午前は宮内省北白川宮の御用を勤め、午後は今まで通りに長府毛利家の仕事もこなしていく。 明治19年(1886)2月に北白川宮家令に任ぜられるが、この年7月に北白川宮は正二位公爵前左大臣嶋津久光養女富子と婚姻し、久光は宮の義父となる。 もともと北白川宮山内豊範妹光子と結婚していたが、光子が不治の病に罹り山内家の依頼により前年明治18年(1885)11月4日に離縁していた。離縁の届を宮内卿伊藤博文に提出した当日4日、大山弥助こと大山巌陸軍卿は、慎蔵にその経緯をわざわざ質している。 この事が翌年の久光の養女富子の輿入れにつながったのではないかと考えている。 慎蔵は以上のように、明治18年から19年にかけて、光子との離縁で山内家、富子との婚姻で嶋津家とも関わってきた。 翌明治20年(1887)12月6日に久光は薨去し、この時、12月7日~28日の日程で、慎蔵は北白川宮名代として鹿児島での葬儀に参列し、西南戦争で亡くなった西郷隆盛などかっての旧友知己の墓にも参り、嶋津家一門、鹿児島県知事などとも交流する。 一方この頃、明治初期に日本伝道を開始した英国国教会は聖ヒルダ伝道団を創設し、その事業の一貫として女学校の設立を図る。明治20年(1887)香蘭女学校設立願いを出願し11月に認可される。 そして、明治21年3月に新聞に載った生徒募集の広告によると、香蘭女学校の場所は麻布区永坂町一番地島津候邸内とあり、その後新校舎をこの島津忠亮子爵(のち明治24年伯爵)邸内に一部借用して開校する。 三吉慎蔵日記によると、明治22年(1889)1月31日の項に、慎蔵の娘友子は昨年から在校していた「明治女学校を退校し、直ちに本日より麻布永坂一番地香蘭女学校へ入学す」とある。 前後の脈絡はなく、突然住まいの近くの香蘭女学校へ「直ちに」入学する。香蘭女学校の一期生は7人で、そのうちの一人となる。 従って友子は小生の年代には懐かしい兼高かおるの先輩となる。 入学前後の三吉友子
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何故香蘭女学校へ急に入学したのか?慎蔵の意思だったのか友子の希望だったのか、資料には何も残っていない。 ただ、翌明治23年4月22日の日記の項に、香蘭女学校の招きにより英国皇族夫妻臨席の何らかのイベントに慎蔵が参席したことの記事があるのみである。 これからの調査によるが、薩長盟約で薩摩藩と関わり、明治以後も宮内省御用掛として役目上からも旧交を温めていたことが、香蘭女学校の創設時に島津伯爵邸を斡旋するなど何らかの関わりを持ち、自分の娘を明治女学校から出来たばかりの香蘭女学校に入れることになったのではないかと考えている。 ただ今のところはすべてがまだ状況証拠の段階であることをお断りしておく。 「 人気blogランキング 」  に参加しました。よろしければ押してくださいませ。
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