ある調査をするのだけれど、この書を取っ掛かりに進めたいと思う。
中には何か所か、慎蔵の記憶違いか聞き手の聞き間違いかの箇所があるが、それも面白い。
三吉慎蔵時治氏談話ノ要
八月十三日豊浦毛利邸ヲ訪ヒ三重盛二氏ニ面談翌十四日ニ於テ林洋三氏ト會合ノ事ヲ約シテ去ル
帰路三吉慎蔵氏ヲ訪フ其對話ノ要左ノ如シ
問 坂本龍馬ト御交際ノ事ハ承知シ居ル、薩長聨合一事ニ付機密ニ與カラレシナラン
答 否機密ヲ與リ聞キシコトナシ唯丙寅正月木戸公カ両藩聨合ノ件ニツキ上京セシトキ長府ヨリモ一人差出ス方可然トノ議ニテ人撰ヲ以テ阪本ト同伴シテ上京シタルノミ
問 木戸公ト御同伴ニテハナキヤ
答 否木戸公ハ先発ナリ私ハ阪本ト共ニ跡ヨリ上リタリ
問 伏見又ハ京都ニテ木戸公ト會合セラレシコトアリヤ
答 否始終行違トナリテ面會セス私ハ正月十八日阪本ト共ニ伏見ニ着シ寺田屋ニ投宿ス阪本ハ即日京師ニ入リ京師ノ様子次第ニテ私モ入京ノ積リナリ然ルニ二十三日ノ夜阪本伏見ニ帰リ来リ薩長聨合ノ約成就セリト報ス依テ其レ等ノコトニ付談話時ヲ移シタルトモ尽キス暫ク寝ニ就カント云フ折柄例ノ危難ニ遭遇シタリ其レヨリ伏見ノ薩邸ニ潜ミ三月一日ニ入京シタリ
問 御遭難当夜ノ状況如何
答 新撰組ノ浪士等ハ既ニ兵庫辺カラ附ケねらひ阪本ガ京都ヨリ伏見ヘ帰ルトキモ矢張其跡ヲ付ケタルナリ最初三四人ノ浪士、宿ニ来タリテ暫ク談判ス
其意蓋シ上意ト云ッテ縄ヲ掛ケル積リナリシナラン然レトモ此方ノ決心堅固ニシテ軽易ニ手を下シカタキヲ知リ一旦辞シ去リ更ニ二十人計ニテ斬込ニタルナリ
此方ニハ十分用意シタルコトナレハ彼等ヲ斬リ伏セテ退散セシメタリ
問 阪本ハ屋根傳ニテ奔リタリトノコトヲ聞ク如何
答 決シテ左様ノ事ナシ私ハ槍ヲ以テ阪本ニ助勢シ数人ヲ突キ倒シ阪本モ奮闘セリ阪本ハ肩ニ傷ヲ受ケタリ肩ヨリ斬リ下（ヲロ）サントシタルナランガ刀カ十分達セサリシヲ以テナリ敵退キタル後更ニ多人数ヲ繰出シテ宿ノ前後ヲ取囲ミタレハ最早遁ルヽ路ナシ
宿ノ主人ニ断リ裏ノ方ヲ打破リ阪本ヲ助ケテ外ニ出デ川端ノ材木屋ノ材木ヲ高ク積ミ上ケタル其絶頂ヘ阪本ヲ助ケ揚ケタリ
河岸等ニハ燈火點々トシテ見張厳重ナリ是レハトテモ遁レヌト覚悟シタレハ縛ニ就テ辱ヲ受ケンヨリイッソ切腹セント決心ス阪本ハ之レヲ留メ、ドウカ薩邸マデ往テ報知シテ呉レヌカト云フ、ソコデ川水ニテ衣袴ノ血ヲ滌キ草鞋ヲ拾ッテ薩邸ニ赴ク方角ハ分ラズ誠ニ困却ヲ極メタリ漸ク薩邸ニ至リテ門ヲ叩キタルニ同邸ニハ巳ニ変事ヲ知リタレハ直様門ヲ開キテ入レタリ其レカラ舩ヲ出シテ阪本ヲ迎ヒニ往クユヘ私カ案内セントシタルモ留メテヤラス焚火シテ暖ヲ取ラシメ又粥ヲ進ムル抔丁寧ニ注意セラル其内阪本ヲ連レテ帰レリ
問 貴殿ノ傷所ハ
答 私ハ別ニ傷ト申ス程ノコトナシ處々ヲ打チタル位ナリ其レヨリ薩邸ニ潜ミ阪本ノ傷所ヲ療治シ三月一日ニ入京シタリ
問 阪本と貴殿カ伏見ヘ御着ハ十八日ニシテ阪本ハ即日入京シ二十三日ノ夜ニ帰伏シタルコトハ承知セリ木戸公ハ如何
答 木戸公ハ阪本ヨリ前キニ忍ヒニテ大阪ニ下ラレタリ
問 然ラハ木戸公ハ阪本ト同伴セズ其前日カニ大阪へ下ラレタルカ
答 然リ阪本ハ跡ヨリ小松其外ノ薩人ト共ニ伏見ニ帰リタルナリ今ノ西郷大臣モ同道ノ一人カト覚ユ
問 阪本ハ木戸公ヲ伏見マテ追掛ケ再ヒ京都ヘ連レ返リタリトノ説アリ如何
答 左様ノ事ナシ阪本ハ十八日入京シ談判終了シタレハ木戸公ハ先キニ下リ阪本ハ跡ヨリ下リタルナリ
問 薩長聨合約束ノコトニ付木戸公ヨリ阪本へ贈リタル書状ハ二十二日附カト覚ユ、アレハ伏見ヨリ発シタルモノカ又ハ大阪ヨリカ
答 多分大阪ヨリ発シタルモノト思ハル
問 品川子爵ノ談話云々如何
答 品川子ノ談話ノ方信スヘシ私ハ前ヨリ話申ス通リ伏見ニ滞留シ居リタレハ談判ノ様子ハ知ラス唯阪本ヨリ傳聞シタルノミ然トモ阪本カ中途ヨリ伏見ニ引返シタルコトモナシ木戸公モ中途ニテ帰ラレタルコトナシ
問 阪本ノ人ト為リハ過激ノ方ナルヤ
答 過激ナルコトハ毫モ無シ且ツ高声ニ事ヲ論スル様ノコトモナク至極オトナシキ人ナリ容色ヲ一見スレハ豪気ニ見受ケラルルモ萬事温和ニ事ヲ處スル人ナリ但シ膽力ハ極メテ大ナリ
問 精兵隊ハ文久三年解隊シタルノミデ消滅シタルヤ
答 然リ
問 士族ノミナリシヤ
答 士族ノミナリ但シ會計其他ノ小吏ニハ卒及商人等モアリタリ
問 報国隊ハ
答 士族ヲ主トシ農商モ亦混ス
家内病人アルトノコト聞キタレハ談話ハ此ニテ留メ他日郵書ニテ照會スル等ノアラン其節ハヨロシクト依頼シテ別ル
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絵は三吉慎蔵と坂本龍馬です
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