祖父の恋

2015年のことだ。 信州上田にて郷土関係の本を求めて書店に入ったのだが、岩波文庫赤帯、シュトルム作の短編「みずうみ」に目がとまり買っていた。 この本を僕は47年ぶりに手にしたのだった。

47年前、81歳の祖父は病床に臥していた。 見舞いに行った母が、何か小説がないか読み物を所望されて帰ってきた。 僕はちょうど読み終えたばかりの、この短編小説を渡したのだった。 老人の回想で始まり、回想で終わる、少年時代から青年時代までの、幼馴染との恋と別れを描いた小説なのだが、祖父にふさわしかいか否かは、あまり考えてもいなかった。

そして今、定年まじかに先祖の調査を始めてから、あることに気付いてきた。 祖父が少年時代に淡い思いを持った人がいたことを。 それは数年前に伯母から譲られた数枚の写真でわかったことだった。 その写真は、戦後に隣家の火事で焼け出された跡地から、回収した7葉の写真の1葉だった。IMG_0530.JPGIMG_0543.JPG

伯母は写真を手渡す時に、写っている女性を祖父が好きだった人だと教えてくれた。143303585797742056179_IMG_0125.jpg

祖父はこの写真を大事にしまっていたのだった。 調べて分かったことだったが、この人は、6歳年上の、近所に住んで家族同士で交際していた、高祖母の実家・小杉家の、高祖母の姪にあたる人だった。 のちに本郷小町と評されるほどの美しい人だったが、その人の写真を大事に持っていた。

祖父が17歳の頃、嫁に行ってしまった。 慶喜が推薦し、容保の次男健雄に嫁いだのだった。 健雄は、当時は宮橋姓で、明治29年久能山東照宮宮司として赴任していた頃になる。 まだ年若い祖父がどんな思いだったのか誰も聞いてはいない。

「みずうみ」では、学校で研究を続けている主人公が、5歳年下の御幼馴染と2年後にと約束をして故郷を離れるのだが、 その間に、女性の母が熱心に勧めて、大きな屋敷の跡を継いだ友人に幼馴染は嫁いでしまう。 改めて読んでいると、何か祖父の少年時代の淡い恋と、この「みずうみ」とが重なり合う様な気がしてくる。 もちろん祖父の思いは最近知ったのであって、重なる部分があるとは思いもしなかったのだが、こんな珠玉の短編を読んで祖父はどう思っただろうか? そのうち、久しぶりに天国ででも会ったらぜひ聞いてみようと思っている。

 

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